大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和55年(ラ)645号 決定 1981年1月30日

抗告人 宮下鐘治

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は、抗告人の負担とする。

理由

一  《省略》

二  当裁判所の判断

1  一件記録によれば、本件任意競売の申立は昭和五五年七月八日原審裁判所になされたことが認められるから、民事執行法の施行(昭和五五年一〇月一日。同法附則一条。)前に申立てられた民事執行事件についてはなお従前の例によるとの同法附則四条に照らし、本件については、なお、廃止前の競売法、改正前の民訴法によることになる。

2  確に、一件記録によれば、本件入札および競売期日公告に、本件競売不動産に対する賃貸借関係が記載されていないこと、が認められる。

しかしながら、右公告に記載すべき賃貸借は対抗力のある賃貸借であることを要するところ、仮に、抗告人が本件抗告理由において主張する同人と右不動産の所有者(ただし、本件任意競売申立当時)廣川典夫との間に締結された賃貸借契約が存在するとしても、右賃貸借は、以下に述べる理由から、対抗力あるとは認め得ない故、右公告に右賃貸借の記載がないことをもつて違法とすることはできない。

(一)  一件記録によれば、本件根抵当権設定登記が昭和五三年三月一七日に行われていること、本件任意競売申立登記が昭和五五年七月一二日に行われていること、抗告人主張の賃貸借については右任意競売申立登記以前にその登記がなされていないこと、が認められる。

(1) 抗告人主張の賃貸借が対抗力を持つためには、本件根抵当権設定前に登記を了すか、借家法一条所定の引渡(ただし、本件競売不動産中建物に関する。)を必要と解すべきである。

しかるに、抗告人主張の右賃貸借が右説示の登記を経ていないこと、は右認定から明らかであるし、右説示の引渡を受けたこと、を認めるに足りる証拠がない。(なお、抗告人は、その主張にかかる賃貸借契約に基づき昭和五四年一〇月二八日目的物件の引渡を受けたと主張するが、右主張の引渡自体を肯認できないこと、は後示のとおり。)

(2) 確に、抵当権設定登記後になされた期間の定めのない建物賃貸借は、民法三九五条の短期賃貸借に該当すると解するのが相当である。

しかし、これとても、対抗力の具備(登記、引渡)を要するところ、右対抗要件としての登記は、競売申立登記前にしなければならない、と解するのが相当である。蓋し、抵当権者が抵当権の実行に著手し抵当不動産につき競売申立登記をなしたときは、これと同時に、その不動産の所有者は、その不動産につき抵当権者の権利に影響すべき一切の登記行為をなすことを禁ぜられる故に、その不動産上に地上権その他の物権の設定登記をすることができないのは勿論、賃貸借契約を登記しこれを不動産の競売後に存続させることができないからである。

本件において、抗告人がその主張にかかる賃貸借につき本件競売申立登記までにその登記を了していないこと、は前叙認定から明らかである。

抗告人は、昭和五四年一〇月二八日右賃貸借に基づく引渡を受けたと主張するが、右引渡の事実は、これを認めるに足りる証拠がない。

かえつて、一件記録中神戸地方裁判所執行官佐藤武作成の賃貸借取調報告書、鑑定人大家通孝作成の鑑定書によれば、昭和五五年九月当時本件建物はその所有者廣川典夫とその妻子が居住使用していて賃貸借は存在しないこと、特に、右執行官は現地に赴き同所で右廣川の妻と面接して右事実を確認したこと、が認められ、右認定事実に照らしても、抗告人の右主張事実は、これを肯認することができない。

(二)  右認定説示に基づき、抗告人主張の賃貸借に対抗力を認めることができない。

抗告人が本件抗告状に添付した賃借権設定契約証書も、右認定説示を左右できない。

3  抗告人主張の賃貸借が右認定説示のとおりである以上、本件入札期日の通知を抗告人に対してなす必要もない。

4  抗告人が本件抗告理由として主張するその余の点は、同人の独自の見解に基づくものであつて、採用するに由ない。

5  以上の次第で、原決定は正当であり、本件抗告は全て理由がない。

よつて、本件抗告を棄却

(裁判長裁判官 大野千里 裁判官 岩川清 鳥飼英助)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例